Q:他の機器分析法と比較した場合,放射化分析の利点は?

A:一般的な多元素同時分析法として良く用いられているものとして,蛍光X線分析法や誘導結合プラズマ
質量分析(ICP-MS)があります。以下にその利点を述べます。

蛍光X線分析法:

INAAと同様に最も手軽に非破壊同時多元素分析できる方法で,蛍光X線分析法では原子番号が隣接する元素から蛍光X線の励起あるいは吸収を受けるため,試料の元素組成を考慮する必要があります。一方,放射化分析では分析結果は試料の組成にあまり依存しません。また,蛍光X線分析法では分析値の正確さは試料表面の滑らかさに依存するので,試料を成型したりする必要があります。そのため,試料を粉砕したり,多量の試料が必要となることもあります。放射化分析では試料の形状に制約がなく,少量の試料で分析が可能です。蛍光X線分析法が放射化分析よりも優れている点は,手軽に定性分析や大まかな定量分析できること,電子顕微鏡と組み合わせることによって試料の形態を観察しながら元素分析ができることなどがあります。

ICP-MS:

近年,装置価格の低下,装置の性能向上などから多元素同時分析に応用されることが多くなっています。ICP-MSによる分析では,試料を分解処理して溶液にするか,レーザーなどで加熱・蒸発するなど,試料の分解・溶解方法の検討が必要であり,貴重な試料を破壊分析することによって失うことになります。機器放射化分析法ではこのような処理をする必要がありません。また,ICP-MSでは室内の塵埃や試薬の不純物など外部からの汚染による分析値の正確さの低下に気をつけなければいけませんが,RNAAでは目的核種の生成放射能を測定するので,高価な高純度試薬や超純水を購入・精製したり,実験器具の洗浄に特別の注意を払う必要はありません。ICP-MSが放射化分析よりも優れている点は,多くの元素の検出感度がpptからサブpptレベルまでと非常に感度が高いこと,高分解能型を使えば定量だけでなく同位体組成も分析できることです。

どの機器分析法が優れていると言うよりも,それぞれの長所を生かした分析を行うのが賢明と言えます。