平成15218

 

文部科学省 

原子力二法人統合準備会議 御中

 

新法人の原子炉施設共同利用に関するお願い

 

放射化分析研究会 

幹事会(氏名別記)

 

 放射化分析研究会は、放射化分析を利用する研究者間の研究交流を図るために1995年に設立された団体です。現在会員数は180名を数え、一つの国にこのような組織があることもそうですが、その会員数の多さにおいても諸外国から驚きの目を向けられています。このことは放射化分析が今や核化学や分析化学という狭い領域から離れ、より広い分野での様々な試料の元素分析に利用され、その分析法としての威力を発揮しているからに他なりません。事実、放射化分析は元素の化学的状態に左右されずにその含有量の絶対値を与える、最も信頼できる分析法として広く認められています。このような事情を反映して放射化分析研究会の会員も多くの学問分野に広がりを持ち、所属機関も大学をはじめとして、公的研究所、会社と様々です。

 現在、放射化分析で最も多く利用されるのは中性子放射化分析ですが、日本の中性子放射化分析の歴史は日本原子力研究所(以下、原研と略称)の研究炉の建設とその発展に添った形で展開されてきました。日本における中性子放射化分析の発展期ともいうべき昭和30-40年代には、原研の原子炉に加えて、立教大学や武蔵工業大学に小型の原子炉が稼働しており、京都大学の原子炉と併せて中性子放射化分析に大いに活用されていました。しかし、その後2つの私大炉が停止ないし休止となり、また、京大原子炉の存続が危ぶまれるなど、放射化分析を行う環境は残念ながら悪化の一途をたどっています。

 このように研究炉を取り巻く状況に困難があるにも関わらず、先に述べたように放射化分析の利用が増加し、利用者のすそ野が拡大している実態があります。その背景には、東京大学原子力研究総合センターに置かれた原研施設利用共同研究委員会及び同センターの東海分室である通称「大学開放研究室」の効果的かつ機能的な役割があることを見逃すわけにはいきません。実際、これら組織の、大学連合の要衝としての主体的な活動なしに現在の放射化分析の展開は見込み得なかったといっても過言ではありません。さらに、この制度の教育的側面も見逃すことはできません。放射化分析研究会の会員のうち大学に所属する会員の多くは原研施設利用共同研究委員会や大学開放研究室と関わりを持っています。しかし、実際に原研施設を利用して共同研究を行うにあたっては、大学院生や大学学部生が利用の実質を担うことが少なくなく、結果としてかなりの数の学生が原総センターのもとでの共同研究制度の恩恵を受けてきたことになります。原子炉を使う放射化分析は学生が放射能・放射線に直に接し、実感をもって核現象を学ぶ絶好の機会を提供します。その意味で、この制度には研究を推進するのと同等、あるいはそれ以上の、非常に大きいな教育的意義が認められます。

 京大原子炉の将来も危ぶまれる今、原研炉は中性子放射化分析グループにとってかけがえのない原子炉となりつつあります。新法人設立後にあっても、原子炉を含めた原研施設をこれまで以上に有効かつ効率的に共用できるようにするだけでなく、その中で、現在の「大学開放研究室」と同等の組織が大学の自主性に基づいて運営され、自らの創意工夫に基づいて原研施設を利用できることが極めて重要です。このことが大学における研究の自主性や独創性を維持するとともに、大学−原研の協力体制を一層強固なものとし、学問の進展に大きく寄与するものと考えられるからです。このことを考慮に入れて、新法人の研究施設の共用をお考え頂きたく、ここに要望致します。

 

以上

 

 

(別記)

放射化分析研究会

平成14年度 幹事

海老原 充(東京都立大学大学院理学研究科、代表幹事)

大浦 泰嗣(東京都立大学大学院理学研究科)

大槻 勤(東北大学大学院理学研究科)

岡田 往子(武蔵工業大学工学部)

片山 幸士(人間環境大学人間環境学部)

上岡 晃(産業技術総合研究所)

川端 良子(東京農工大学留学生センター)

澤幡 浩之(東京大学原子力研究総合センター)

関 李紀(筑波大学化学系)

高田 實彌(京都大学原子炉実験所)

中西 友子(東京大学大学院農学生命科学研究科)

福島 美智子(石巻専修大学理学部)

桝本 和義(高エネルギー加速器研究機構放射線科学センター)

松尾 基之(東京大学大学院総合文化研究科)

宮本 ユタカ(日本原子力研究所東海研究所環境化学研究部)