平成20108

 

研究炉加速器管理部長

山下清信様

 

要望書

 

 平素より,日本放射化分析研究会の活動に対してご理解,ご協力頂き,ありがとうございます.日本放射化分析研究会は1995年に発足した研究会ですが,その母体は(旧)原子力研究所の原子炉を利用した放射化分析研究者の集まりで,いわば,原研炉ユーザーの親睦団体的意味合いを持つ組織でした.現在ではその会員数が200に手が届くところまでになり,また,原研炉に加えて京大炉のユーザーも加わった組織にまで発展しましたが,その礎となったのは上記の通り,原研炉,特にJRR-3の存在でした.

 放射化分析の利用において,JRR-3には日本の他の研究炉にない大きな特徴が2つあります.一つはその多様な照射場を提供してくれること,もう一つは中性子ビームの利用にあります.前者についての,秒単位の照射から4週間に渡る連続照射までの照射時間の多様性や,一桁台から300までのカドミウム比の大きな変化をともなう照射場は他の原子炉では得られない特徴です.また,1990年の改造後に大幅な施設の拡充がなされ,中性子ガイド管の敷設によって可能となった中性子ビーム実験では,中性子散乱,中性子ラジオグラフィーに加えて,中性子誘起即発ガンマ線分析等の実験が実施可能となりました.この即発ガンマ線分析においては近年,その産業利用への道が拓かれ,マシンタイムの奪い合いが生じるくらい活発に利用されるに至っています.

 放射化分析は元素分析法の一つで,方法論的な開発段階を終え,現在では応用利用にその中心が移っています.提供される試料としては,環境科学的試料,地球科学的試料,生物化学的試料,農産物試料,考古学試料,金属材料,宇宙化学的試料等々,ほとんどすべての分野で利用されており,そのような状況を反映して日本放射化分析研究会の会員は非常にその専門領域が多岐に渡っています.その会員の相当数が大学に所属していることから,所属大学の学生が実験に参加することが少なくなく,会員数を大幅に上回る放射化分析利用者が存在します.このことはJRR-3の見えざる重要性といっても過言ではない側面だと思われます.

 先般,貴機構内において対年度予算が議論される中で,JRR-3の大幅な利用制限を盛り込んだ案が取りざたされていると聞きます.特に冷中性子ビームの利用中止はMPGA(多重即発ガンマ線分析)連携重点研究の中止に繋がり, Pn-3照射施設の使用中止は中性子放射化分析の利用に大幅な制限を与えるものです.このように,JRR-3は中性子放射化分析を用いた研究にとって唯一無二の施設であると同時に,教育のための施設としてもかけがえのない重要な存在です.原子力関連の多様な研究・教育を推進することは将来の日本の原子力関連技術や研究を支えることになることは疑問の余地がありません.このような状況を鑑み,JRR-3の利用に関する大幅な経費削減案を撤回して頂き,日本のCenter of ExcellenceとしてのJRR-3の存在をご理解頂き,より一層の活性化に向かってご努力頂きたく,切にお願いする次第です.

 

日本放射化分析研究会

代表幹事 海老原充

(首都大学東京 教授)